血管の半径が広がったとき、血流はどう変わるか。
R ∝ ηL / r⁴ であり、抵抗は半径の4乗に反比例する。半径がわずか19%広がるだけで抵抗は半分、血流は2倍になる。灸が「血流を増やす」というとき、実質的に動かしているのはこの半径である。根拠:第1章
手掌・足底・耳などの無毛部に密に分布し、開くと大量の血液が皮膚表層を通って熱を放散する構造はどれか。
無毛部には、細動脈と細静脈を毛細血管を介さず直結する動静脈吻合(AVA)がある。AVAは交感神経の支配を強く受けるため、緊張の解除が大きな血流変化として現れやすい。有毛部にはAVAがなく、加温時の主機序は軸索反射とNOになる。同じ灸でも部位によって働く機序が違う。根拠:第2章
「血流が増えること自体が、さらなる血管拡張を呼ぶ」というループを担っているのはどの制御系か。
血流が増えると内皮に加わるずり応力が上がり、eNOS が活性化して NO が産生される。慢性温熱療法が血管内皮機能を改善するのは、この経路の反復刺激によると考えられている。根拠:第3章/[13]
灸の主要な標的と考えられている TRPV1 は、何℃を超える熱で活性化するか。
TRPV1 は約43℃を超える熱で活性化し、この温度はヒトが熱を痛みとして感じ始める温度と一致する。約52℃はTRPV2、32〜39℃はTRPV3の閾値であり、いずれも本書に登場する別のチャネルの値である。根拠:第4章
灸の温度設計について、本書はどうまとめているか。
熱ショックタンパク質の誘導閾値がおよそ42℃、組織熱傷が発生するのが44℃超である。灸はこの狭い帯域をめぐって組み立てられている。根拠:第6章/[14]
燃焼中の艾から皮膚に届く熱について、正しいのはどれか。
燃焼中の艾は単一の温度を持つ物体ではなく、先端の燃焼帯(550〜700℃)と、その後方の赤外放射帯(200〜400℃)という二つのゾーンからなる。皮膚に届く熱の大部分は高温部からの直接の伝導ではない。根拠:第8章/[15]
灸法を「熱の伝わり方」で分けたとき、金属を熱伝導路として深部組織へ熱を運ぶ手法はどれか。
灸頭鍼は刺入した鍼の柄に艾を装着して燃やす。金属鍼を熱伝導路として深部組織へ熱を運ぶ唯一の灸法である。透熱灸は直接燃焼、棒灸は輻射熱、隔物灸は介在物を介した伝導熱に分類される。根拠:第9章
レーザードップラー血流計(LDF)で得られた数値を読むとき、最も注意すべきことは何か。
LDFは皮膚微小循環を1点で測る手法で、深さは約1mm、出力は相対値である。本書は「PU の変化量を絶対的な効果量と誤読しないことが最も重要な作法」としている。点計測のため再現性に難があり、複数プローブの使用が推奨されている。根拠:第1章/[17]
棒灸について、実測から言えることはどれか。
棒灸は距離20mmで51.2℃、100mmで30.1℃と報告されており、100mmでは42℃に一度も到達しない。距離を変えるだけで灸は別物の刺激になる。根拠:第2章/[18]
灸様の温熱刺激に対する局所血流の反応は、どんな形を示すと報告されているか。
ラットの筋血流では低下相(平均 −23.3%)に続いて増加相(平均 +25.5%)が現れ、血圧は変化しなかった。施灸直後に一度冷たく感じられても、失敗の徴候とは限らない。低下相は交感神経性、増加相は軸索反射性という別の機序である。根拠:第3章/[9]
壮数を増やしたときの反応について、正しいのはどれか。
皮膚温という表層指標は1壮で飽和する一方、深部温度は連続して数壮据えることで増強されると報告されている。表層の指標が頭打ちになっても、深部では起きていることがある。根拠:第4章/[20]
灸の作用範囲について、本書はどう整理しているか。
物理的加温は施灸部から7.5mm以遠で温度変化がわずかになる一方、局所神経反射は数cm、全身反射は対側や遠隔臓器にまで及ぶ。層ごとに範囲と機序が違う。根拠:第5章
健常者の下腿への間接灸(ST36、5分)で観察された変化はどれか。
血圧は変化せず心拍数のみが低下し、副交感神経指標(RMSSD)が上昇した(n=15)。皮膚温と心拍数には負の相関(r = −0.73)が認められている。根拠:第6章/[3]
骨盤位(逆子)に対する灸について、本書はどう位置づけているか。
BL67(至陰)への灸は、灸が主要国の産科ガイドラインに記載された唯一の適応である。ただし提唱されている機序(胎盤エストロゲンとプロスタグランジンを介した胎動増加)はCochraneレビューが仮説として挙げているもので、機序そのものが検証されたわけではない。根拠:第9章
灸の有害事象として最も多く報告されているものはどれか。
症例報告の系統的レビューでも臨床試験でも、灸の有害事象として中心に挙がるのは熱傷である。ただし報告される頻度は試験によって大きく異なり、これは安全性そのものの差ではなく何を有害事象として記録したかの差である可能性が高い。根拠:第13章
灸の全身作用について、本書の結論はどれか。
皮膚血流が増えた分、どこかが減っている。全身作用は増加ではなく再配分である。この点は複数の独立した研究で一致している。一方、灸種ごとの効果量の比較や効果の持続時間といった定量データはまだ揃っていない。根拠:第14章
透熱灸の刺激量を連続的に変えたいとき、実測データから支持されている変数はどれか。
艾炷の密度と温度持続時間のあいだには有意な直線回帰が認められている(r = 0.92)。一方、高さの違いによる温度上昇速度に有意差は認められず、「高くひねった艾炷ほど緩やかに熱が伝わる」という論拠は見出せなかったと著者らは述べている。根拠:第1章/[8]
温度感受性TRPチャネルについて、本書の要点はどれか。
TRPV4は27〜35℃、TRPV3は32〜39℃、TRPV1は43℃超、TRPV2は52℃超で活性化する。したがって「もう少し熱くする」という調整は、量を増やす操作ではなく動員する受容体集団を入れ替える操作である可能性がある。根拠:第2章/[1]
「灸=TRPV1」と言い切れないのはなぜか。
TRPV1は最有力候補だが、熱侵害受容は冗長性を持つ系として設計されている。ひとつのチャネルを潰しても熱の感受が完全には失われないことが示されており、灸の説明をTRPV1だけに帰することはできない。根拠:第3章
灸の刺激を伝える神経線維について、正しい組み合わせはどれか。
Aδ線維は薄い髄鞘をもち速い一次痛を、無髄のC線維は遅い二次痛と温感を伝える。なお灸の加温プロファイルでヒトのAδ・C線維閾値を測定した研究は見出せていない。根拠:第5章
軸索反射とはどんな反応か。
灸様温熱刺激による筋血流の増加相は、脊髄を離断しても保たれ、CGRP拮抗薬で消失した。ここから著者らは、増加相は脊髄より末梢に反射弓を持つ軸索反射によると結論している。根拠:第7章/[13]
脊髄後角はどんな場所か。
後角を「信号が通過する場所」と考えると灸の生理学は理解できない。後角は中継点ではなく、複数の入力を統合し編集する場所である。根拠:第9章
灸の刺激と脊髄後角ニューロンの関係について、報告されているのはどれか。
灸はまず後角ニューロンを発火させる。温度が高いほど発火が大きいと報告されている。「灸は痛みを抑える」という結論だけを覚えると、この向きを取り違える。根拠:第10章
「痛いところから離れた場所に灸を据えても効く」ことをDNIC/CPMで説明することについて、本書はどう述べているか。
DNIC/CPMの回路と評価法は確立しており、灸が後角WDRニューロンを発火させることも示されている。しかし灸でCPMを誘導できるかを検証したヒト研究は1件も見出せなかった。患者への説明は「そういう仕組みが身体に備わっていることは分かっている」までにとどめるのが誠実である。根拠:第13章
後角を出た信号が脳へ届く経路について、正しいのはどれか。
上行路は一本道ではない。複数の並列経路を通って脳へ上行し、感覚・情動・意味づけという異なる次元で処理される。根拠:第1章
下行性疼痛調節系はどう働くか。
下行性調節系はON細胞とOFF細胞を持ち、痛みを増やしも減らしもする。「下行性=鎮痛」と単純化すると、効果が出ない場合の説明ができなくなる。根拠:第3章
「灸は副交感神経を優位にする」という説明について、本書の立場はどれか。
これは鍼灸教育で最も広く流布し、かつ最も証拠と食い違っている説明である。本書は「副交感優位」で終わらせない。根拠:第5章
体性-自律神経反射の向きは何によって変わるか。
同じ体表刺激でも、部位と強度によって自律神経出力の向きが変わると報告されている。ただしこの領域の知見の多くは電気刺激で得られており、灸の温熱刺激への外挿には留保が必要である。根拠:第6章
灸の安全性について、本書が挙げているのはどれか。
症例報告の系統的レビューでは熱傷が中心で、神経障害の報告も存在する。有痕を伴う手法は倫理審査と盲検化が難しく、研究が進みにくい構造的理由がある。根拠:第9章
本書が空白リストを掲げている理由はどれか。
臨床で最も広く使われている手法ほど、実は測定されていない。本書は方法論上の構造的困難(盲検化・出版バイアス・電気刺激からの外挿)とあわせて、見出せなかった項目を次の研究者が明日着手できる粒度で列挙している。根拠:第10章
痛みは本書でどのように分類されているか。
この三分類が本書全体の骨格である。分類が違えば、灸が届く地点も違う。第IV部では、この分類に沿って臨床試験の報告値を並べている。根拠:第1章
末梢感作が起きている皮膚では、灸の熱はどうなるか。
炎症が起きた組織では同じ刺激で以前より強い痛みが出る。末梢感作が生じている皮膚では、灸の熱がふだんより強い入力になる。これは用量を下げる合理的な根拠になる。根拠:第3章
CPM(条件刺激性疼痛調節)とは何を評価するものか。
ヒトでは定量的感覚検査に基づく評価パラダイムとして用いられる。灸を条件刺激として用いた研究は本書の調査範囲では見出せていない。根拠:第6章
灸の実測温度について、正しいのはどれか。
灸種ごとに最高温度・到達時間・42℃超過時間が異なる。ここを曖昧にしたまま機序を論じると、動物実験の温度条件と臨床の温度条件を無自覚に混同する。根拠:第8章
「熱い灸」と「温かい灸」の関係について、本書の立場はどれか。
温度は動員する受容体集団を切り替える変数である。心地よい温感で行う灸と、はっきり熱い灸を、同じ機序の強弱として説明することは避けるべきである。根拠:第9章
本書が「灸が届いていない地点」という章を置いているのはなぜか。
分かっていないことを具体的に書けない教材は、臨床判断の材料にならない。本書は経路を分解したうえで、灸の入力がまだ確認されていない地点を一章使って明示している。根拠:第14章
変形性膝関節症に対する灸について、本書はどう扱っているか。
本書は効果量を一覧にし、そのうえでなぜ額面どおり受け取れないのかを書く。対照の厳しさが違えば、同じ数値の意味は変わる。根拠:第1章
神経障害性の痛み(帯状疱疹後神経痛・糖尿病性末梢神経障害など)に対する灸のエビデンスの確実性は、本書ではどう位置づけられているか。
系統的レビューやRCTは存在するが、非盲検・小規模・単一国由来という限界を伴う。本書はCochraneの確実性語彙に寄せて低いと位置づけている。根拠:第2章
腰痛に対する灸の研究を読むとき、本書が注意を促していることはどれか。
著者ら自身が、大きな群間差は実施バイアスと検出バイアスによる可能性があると明記している例がある。数値そのものより、その数値がどんな対照と比べて出たかに注意して読む。根拠:第4章
侵害可塑性の痛み(線維筋痛症など)に対する灸について、本書はどう書いているか。
三分類のうち三つ目については、本書は一度も数値を出していない。データがない領域をデータがないと書くことが、この章の役割である。根拠:第5章
偽灸(sham moxibustion)について、正しいのはどれか。
外観・燃焼過程・燃えかすが同一で、台座の断熱層が熱と煙を遮断する偽灸が検証されている。盲検化は不可能ではない。にもかかわらず、この手法は普及していない。ただし断熱層は温熱刺激そのものを与えないため、患者は温感の有無をある程度識別しうる。根拠:第8章
灸の熱傷の頻度が試験によって大きく違うのはなぜか、本書の読み方はどれか。
症例報告の集積と、臨床試験で系統的に記録された頻度には大きな差がある。記録の仕方が違えば、頻度は変わる。根拠:第9章
本書が「撤回論文とガイドラインの誤り」という章を置いている理由はどれか。
撤回されたメタ解析と、『腰痛診療ガイドライン2019』の鍼治療に関する記載の誤りという二つの具体例を挙げている。後者は査読誌に掲載された指摘論文で確認できる。数値を額面どおり受け取れない理由を、抽象論ではなく実例で示す。根拠:第10章
艾(もぐさ)とは何か。
艾は葉ではない。葉から特定の部分——毛茸——だけを取り出したものである。艾は非分泌毛が主体と理解されているが、精製後にどの比率で残るかを定量した研究には到達できていない。根拠:第1章/[1]
精製とは、艾にとってどんな工程か。
生葉と艾の重量比を上げると、親水性のフェノール酸・フラボノイドが 58.67〜84.06% 減少すると報告されている。精製とは、薬理成分を捨てて熱源としての性質を得る工程である。根拠:第2章/[2]
艾を長く寝かせると何が変わると報告されているか。
3年と10年の試料では着火温度が 218.3℃ と 222.6℃ で、10年のほうがわずかに高い。残渣は試料により 11.1〜26.1% あり、フェノールは全試料で検出されている。原著は寝かせる年数の良し悪しを述べていない。根拠:第4章/[3]
モグサの品質評価について、本書が扱っているのはどんな取り組みか。
艾の良し悪しはこれまで主に手触り・見た目・経験で判断されてきた。一定加圧時の体積や色の数値化による標準化の試みが報告されているが、本書はこれらの日本語文献の本文に到達できず、数値を引用していない。根拠:第6章
日本の艾を日本の施術環境で測ったお灸の煙について、報告されているのはどれか。
基準値以下と報告されている一方で、有害物質は必ず生成するため作業環境の措置は必要である。なお本書は原著本文の実測濃度の表には到達できず、抄録原文のみを引用している。根拠:第8章/[12]
煙の成分研究で報告される数値を読むとき、最も注意すべき区別はどれか。
同じ「煙の成分」でも、抽出した成分の相対的な存在比を報告する研究と、施術環境の実濃度を報告する研究がある。測っている量そのものが違うため、ここを取り違えると同じ現象について正反対の結論を持つことになる。根拠:第9章
温度曲線を読むとき、最初に確認すべきことは何か。
温度の数値そのものより先に確認すべきは測定点である。センサを艾の内部・底面・皮膚表面・模擬生体のどこに置いたかで、温度は桁で変わる。根拠:第1章
同じ台座灸について 55.9℃ と 26.7℃ という異なる温度が報告されているのはなぜか。
55.9℃ は灸の温度特性としての熱電対による測定、26.7℃ は積層した生ハムを用いた簡易生体モデルの最表面温度である。違うのは灸ではなく、どこに何を置いて測ったかである。この二つを直接比較して結論を出すことはできない。根拠:第2章
透熱灸の刺激量(熱の持続時間)と直線的な関係が報告されているのはどれか。
米粒大艾炷では、密度と温度持続時間のあいだに有意な直線回帰が認められている(r = 0.92)。ひねりの固さは刺激量を連続的に制御できる変数である。ただしこれは石綿板上の底面温度の測定である。根拠:第3章/[4]
「高くひねった艾炷ほど緩やかに熱が伝わる」という説明について、実測はどうだったか。
同じ論文で、高さの違う艾炷の温度上昇速度(32〜45℃)に有意差は認められなかった。著者らはこの論拠は見出せなかったと述べている。経験的に語られてきた説明が、実測では支持されないことがある。根拠:第4章/[4]
艾の燃焼過程について、熱重量分析が示しているのはどれか。
第1段階は120℃未満で起こり、そこで水分と揮発性成分が失われる。つまり成分の多くは、燃焼の本体が始まる前に飛んでいる。根拠:第5章/[3]
燃焼中の艾条1本の温度について、報告されているのはどれか。
1本の艾条の断面内で400℃を超える温度差が報告されている。「灸の温度」という一つの数字は存在しない。根拠:第6章
灸種を比較するとき、本書が最も重視する軸はどれか。
最高温度だけを比べると灸種は一列に並ぶ。しかし患者が受け取る刺激を決めているのは曲線の形である。ただし複数の灸種を同一の測定系で比較し、曲線の形を数値化した研究は本書の調査範囲には無い。根拠:第10章
灸の赤外放射について、正しいのはどれか。
艾の放射は赤外であり、生体組織における透過深度は限られる。したがって「赤外線が深部まで直接届く」という説明は物理的に成立しない。深部への到達は熱伝導と神経反射による。根拠:第11章
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