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glossary — お灸の用語辞典

お灸の用語辞典

教材に出てくる用語を59語まとめました。定義はすべて教材本文に書かれている範囲にとどめ、 数値は原著の報告値をそのまま記しています。各語から、その語を扱っている章に直接飛べます。

透熱灸

とうねつきゅう
direct moxibustion
灸法

精製度の高い点灸用の艾を米粒大〜半米粒大にひねり、皮膚の上で燃やし切る灸法。意図的に微小な熱傷(灸痕)を残す有痕灸。艾炷の底面温度は実測で140〜160℃と報告されている。

知熱灸

ちねつきゅう
灸法

艾を皮膚上に置くが燃やし切らず、患者が熱さを感じた時点で取り除く灸法。TRPV1の閾値(約43℃)に達した瞬間に刺激を終える設計で、熱傷は作らない。

台座灸

だいざきゅう
moxa cone on base
灸法

紙筒と台座の上で艾を燃やす市販の間接灸。伝導熱と輻射熱の両方を用いる。実測の平均最高温度は 55.9±5.0℃、最高温度到達までは約160.7秒と報告されている。

棒灸

ぼうきゅう
moxa stick
灸法

棒状に固めた艾を皮膚から距離を置いてかざす灸法。距離が唯一かつ最大の制御変数で、20mmで51.2℃、100mmで30.1℃と、距離を変えるだけで別物の刺激になる。

箱灸

はこきゅう
灸法

木箱の中で艾を燃やし、広い面を穏やかに温める灸法。腹部・腰部に用いる。

隔物灸

かくぶつきゅう
灸法

生姜・ニンニク・塩・味噌・枇杷葉などを皮膚と艾のあいだに挟む灸法。介在物が熱容量と熱伝導率を決めるため到達温度と持続時間が変わり、介在物由来の化学的刺激も加わりうる。

偽灸

ぎきゅう
sham moxibustion
灸法

臨床試験の対照に用いる、外観・燃焼過程・燃えかすが本物と同一で、台座の断熱層が熱と煙を遮断するデバイス。被験者・施術者の盲検化に成功した検証試験が報告されている。

毛茸

もうじょう
trichome
材料

植物の表皮にある毛状の突起。ヨモギではこれが艾の実体となる。分泌毛と非分泌毛があり、艾は非分泌毛が主体と理解されているが、精製後にどの比率で残るかを定量した研究には到達できていない。

精製

せいせい
refining
材料

艾から葉肉や夾雑物を取り除く工程。生葉と艾の重量比を上げると親水性のフェノール酸・フラボノイドが58.67〜84.06%減少すると報告されており、薬理成分を捨てて熱源としての性質を得る工程といえる。

寝かせる

ねかせる
ageing
材料

製造後の艾を保管して熟成させること。3年と10年の試料を比べた熱重量分析では着火温度が218.3℃と222.6℃で、10年のほうがわずかに高いと報告されている。原著は年数の良し悪しを述べていない。

熱重量分析

ねつじゅうりょうぶんせき
TG/DSC
材料

試料を加熱しながら質量変化を測る手法。艾の燃焼は三段階で進み、第1段階(120℃未満)で水分と揮発性成分が失われることが示されている。

GC-MS

ガスクロマトグラフィー質量分析
GC-MS
材料

ガスクロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた成分分析法。お灸の煙の成分研究で用いられるが、報告されるのが「存在比」か「実濃度」かで印象が大きく変わる点に注意が必要。

お灸の煙

おきゅうのけむり
moxa smoke
材料

艾の燃焼で生じる煙。日本の艾を日本の施術環境で測った研究では、測定された物質はいずれも基準値以下と報告されている。同時に有害物質は必ず生成するため、作業環境の措置は必要とされる。

温度曲線

おんどきょくせん
temperature curve
温度・物理

施灸中の温度を時間軸に沿って描いた曲線。立ち上がりの速さ・ピークの持続・裾の長さという形が刺激の性格を決める。最高温度だけを比べても灸種の違いは捉えられない。

42℃

よんじゅうにど
42 degrees
温度・物理

灸の温度設計が集まる境界。熱ショックタンパク質を誘導する臨界温度がおよそ42℃、TRPV1の活性化(熱痛)が約43℃、組織熱傷が44℃超とされ、灸は「42℃を超え、44℃を超えすぎない」時間の確保をめぐって組み立てられている。

燃焼帯

ねんしょうたい
combustion zone
温度・物理

燃焼中の艾の先端の赤熱部(550〜700℃)。その後方に赤外放射帯(200〜400℃)があり、皮膚に届く熱の大部分は高温部ではなくこの放射帯からの輻射と、灰・台座を介した伝導による。

赤外放射

せきがいほうしゃ
infrared radiation
温度・物理

艾の燃焼が出す放射。可視光ではなく赤外であり、生体組織における透過深度は波長により数百µm〜数mm程度にとどまる。「赤外線が深部まで直接届く」という説明は物理的に成立しない。

熱電対

ねつでんつい
thermocouple
温度・物理

2種の金属の接点で温度を測るセンサ。灸の温度研究の主要な測定手段だが、センサをどこに置いたかで数値が桁で変わるため、測定点の記載がない数値は比較できない。

模擬生体モデル

もぎせいたいモデル
biological phantom
温度・物理

生体の熱物性を模した測定用の試料。積層した生ハムを用いた研究では、台座灸の最表面温度が26.71℃・27.41℃と報告されている。同じ台座灸が55.9℃とも報告されるのは、測定点と測定対象が違うためである。

TRPV1

ティーアールピーブイワン
TRPV1
生理学

約43℃を超える熱で活性化する非選択性陽イオンチャネル。カプサイシン受容体としてクローニングされ、灸の主要な標的と考えられている。炎症性メディエータにより活性化閾値が下がる。

TRPV2

TRPV2
生理学

約52℃という高い閾値で活性化するTRPV1の相同分子。カプサイシン・酸・中程度の熱には応答しない。

温度感受性TRPチャネル

おんどかんじゅせいティーアールピー
thermoTRP
生理学

温度で開くイオンチャネル群。TRPA1(17℃以下)・TRPM8(25〜28℃以下)・TRPV4・TRPV3・TRPV1(43℃超)・TRPV2(52℃超)と閾値が並び、灸の温度帯は複数の閾値をまたぐ。温度は刺激の強弱ではなく、動員する分子を切り替える変数である。

Aδ線維

エーデルタせんい
A-delta fiber
生理学

薄い髄鞘をもつ細い求心性線維。速い一次痛(鋭い痛み)を伝える。

侵害受容器

しんがいじゅようき
nociceptor
生理学

組織損傷を起こしうる刺激に応答する感覚神経の終末。熱・機械・化学の刺激に反応する。

末梢感作

まっしょうかんさ
peripheral sensitization
生理学

炎症などにより侵害受容器の閾値が下がり、同じ刺激でより大きな応答が出る状態。TRPV1の熱活性化閾値は炎症性メディエータで最低30℃付近まで下がると報告されている。

軸索反射

じくさくはんしゃ
axon reflex
生理学

脊髄を経由せず、一本の感覚神経の分枝内で完結する反応。灸様温熱刺激による筋血流の増加相は、脊髄を離断しても保たれ、CGRP拮抗薬で消失することから軸索反射性と結論されている。

CGRP

シージーアールピー
calcitonin gene-related peptide
生理学

感覚神経終末から放出される強力な血管拡張ペプチド。軸索反射による局所血流増加を媒介する。ヒトの施灸による遊離量を直接測定した研究は見出されていない。

フレア反応

フレアはんのう
flare response
生理学

刺激部位の周囲に広がる発赤。ヒトで観察でき、主にカプサイシン感受性のC線維を介すると報告されている。

脊髄後角

せきずいこうかく
spinal dorsal horn
生理学

一次求心性線維の入力を受ける脊髄の領域。単なる中継点ではなく、複数の入力を統合し編集する場所である。

WDRニューロン

ワイドダイナミックレンジニューロン
wide dynamic range neuron
生理学

触刺激から侵害刺激まで幅広い強度に応答する後角の二次ニューロン。灸はこのニューロンを発火させ、温度が高いほど発火が大きいと報告されている。

体性-自律神経反射

たいせいじりつしんけいはんしゃ
somato-autonomic reflex
生理学

体表への刺激が自律神経の出力を変える反射。反応の向きは刺激部位と強度に依存し、「灸は副交感優位にする」と一様には言えない。

下行性疼痛調節系

かこうせいとうつうちょうせつけい
descending pain modulation
生理学

中脳水道周囲灰白質(PAG)と吻側延髄腹内側部(RVM)を中心に、脳から脊髄後角へ働きかけて痛みを抑えも強めもする系。ON細胞とOFF細胞という双方向の要素をもつ。

DNIC / CPM

ディーエヌアイシー/シーピーエム
conditioned pain modulation
生理学

離れた部位に侵害刺激を加えると別の侵害入力が減弱する現象。ヒトではCPMと呼ばれ内因性疼痛抑制機能の評価に用いられる。灸でCPMを誘導できるかを検証したヒト研究は見出されていない。

タキフィラキシー

tachyphylaxis
生理学

反復刺激に対する応答の減弱。TRPV1では反復熱刺激による減弱がヒトで約25%と報告されている。ただし灸を用いてヒトで直接測定した研究は存在しない。

HSP70

エイチエスピーななじゅう
heat shock protein 70
生理学

熱ストレスで誘導される分子シャペロン。誘導の臨界温度はおよそ42℃とされ、変性タンパク質に結合してアポトーシスを抑える。

一酸化窒素

いっさんかちっそ
nitric oxide (NO)
温度・物理

血管内皮が産生する血管拡張物質。血流が増えると内皮に加わるずり応力が上がり、eNOSが活性化してNOが産生される正のループがある。

ずり応力

ずりおうりょく
shear stress
温度・物理

血流が血管内皮に加える摩擦力。慢性温熱療法による血管内皮機能の改善は、この経路の反復刺激によると考えられている。

動静脈吻合

どうじょうみゃくふんごう
arteriovenous anastomosis (AVA)
温度・物理

手掌・足底・指趾・耳・鼻などの無毛部にある、細動脈と細静脈を毛細血管を介さず直結する構造。交感神経の支配が強く、開けば大量の血液が皮膚表層を通って熱を放散する。

レーザードップラー血流計

laser Doppler flowmetry
研究方法

組織の微小循環を非侵襲で測る装置。出力は相対値であり、機器や部位をまたいだ絶対値の比較はできない。

FMD

エフエムディー
flow-mediated dilation
研究方法

血流依存性血管拡張反応。血管内皮機能の指標。8週間の受動的温熱療法で 5.6±0.3% から 10.9±1.0% へ上昇したと報告されている。

心拍変動

しんぱくへんどう
heart rate variability (HRV)
研究方法

心拍間隔のゆらぎ。RMSSD などの指標が副交感神経活動の推定に用いられるが、推定であって直接測定ではない。

侵害受容性疼痛

しんがいじゅようせいとうつう
nociceptive pain
痛み

組織の損傷や炎症によって侵害受容器が活性化して生じる痛み。変形性膝関節症の痛みなどが該当する。

神経障害性疼痛

しんけいしょうがいせいとうつう
neuropathic pain
痛み

体性感覚神経系の損傷や疾患によって生じる痛み。帯状疱疹後神経痛や糖尿病性末梢神経障害が該当する。

侵害可塑性疼痛

しんがいかそせいとうつう
nociplastic pain
痛み

明らかな組織損傷や神経損傷がないのに、侵害受容の処理が変化して生じる痛み。線維筋痛症などが議論される領域で、灸のデータはほとんど無い。

アロディニア

allodynia
痛み

通常は痛みを起こさない刺激で痛みが生じる状態。

エビデンス階層

エビデンスかいそう
hierarchy of evidence
研究方法

研究デザインの確からしさによる格付け。本ライブラリではA(盲検化RCT/Cochraneレビュー)からE(非査読資料)まで5段階を用い、動物実験とヒトのRCTを同じ書き方で並べないことを規約としている。

系統的レビュー

けいとうてきレビュー
systematic review
研究方法

定めた手順で文献を網羅的に集め、批判的に評価する総説。集めた結果を統計的に統合するとメタ解析になる。

Cochraneレビュー

コクランレビュー
Cochrane review
研究方法

Cochrane共同計画による系統的レビュー。結論は「高・中等度・低・非常に低」という確実性の語彙で示される。

出版バイアス

しゅっぱんバイアス
publication bias
研究方法

陽性の結果が発表されやすく、陰性の結果が発表されにくいことで生じる偏り。灸の臨床試験では単一国由来の研究に偏る傾向が指摘されている。

盲検化

もうけんか
blinding
研究方法

被験者や施術者に割り付けを知らせない手続き。灸は熱・煙・香を伴うため難しいが、偽灸デバイスを用いて盲検化に成功した試験も報告されている。

効果量

こうかりょう
effect size
研究方法

介入の効果の大きさを表す指標。有意差の有無とは別の情報であり、対照が何かによって同じ数値の意味が変わる。

撤回論文

てっかいろんぶん
retracted paper
研究方法

出版後に誤りや不正が判明して撤回された論文。撤回後も引用され続けることがあり、灸の領域でも撤回されたメタ解析が確認されている。

この辞典は教材の付録です。定義の根拠となる報告値と出典は、各語のリンク先の章に記載しています。 教材一覧へ 理解度チェックへ