熱は、熱のままでは伝わらない
灸が身体に与えているのは熱である。しかし脳に届くのは熱ではない。皮膚で活動電位に変換された電気信号である。本書は、その変換と伝達と処理を、原著の報告値だけで一本の線としてたどる。二分冊の①にあたる本書は、皮膚での受容から脊髄後角までを扱う。脳・下行性調節・自律神経出力は②に送る。
00本書の読み方とエビデンスの階層
本書は「灸が何に効くか」を並べる本ではない。身体が熱刺激をどう受け取り、どう処理し、どんな出力を返すのかを、測定された数値の順にたどる本である。数値はすべて原著の報告値であり、編者が計算・推定した値は含まない。
0-1 この教材を貫く三つの問い
- 灸の熱は、皮膚のどの分子で電気信号に変換されるのか
- その信号は、どの神経線維を通り、脊髄と脳で何をされるのか
- どこまでがヒトで確かめられ、どこからが動物実験からの推論なのか
本書は原著の報告値だけで構成する。報告値を超えて編者が可能性を述べる箇所は、1冊につき2件までとし、いずれも「考察」「臨床仮説」等のラベルを付けた囲みの中に置き、成立しない条件を併記する。囲みの外の本文に、報告されていない因果や機序を書かない。ラベルのない断定は、すべて原著の報告値か、原著の著者自身の結論である。
0-2 エビデンスの階層
本書に出てくる知見は、すべて次のA〜Eのいずれかに属する。本文中では、動物実験とヒト実験を同じ書き方で並べない。各知見の直後に、対象(ヒト/ラット/マウス)と n を必ず記す。
| 階層 | デザイン | 本書での典型例 | 主な弱点 |
|---|---|---|---|
| A | 盲検化RCT/Cochraneレビュー | 骨盤位に対する灸のCochraneレビュー[31]、受動的加温の系統的レビュー[26] | 本数が少ない。偽灸の妥当性 |
| B | 健常者実験(客観指標) | 間接灸のHRV実験[24]、フレア反応の脱感作実験[14] | n が小さい。短時間観察 |
| C | 動物実験(機序解明) | 後角ニューロン記録[18]、迷走神経切断実験[27] | 刺激条件がヒト臨床と異なる |
| D | 非盲検RCT/単群前後比較 | 熱敏灸の安静時fMRI研究[22] | 出版バイアス大。期待効果を分離できない |
| E | 実技者の実測報告・症例報告(非査読) | 本書では数値の引用に用いていない | 査読なし。ただし物理測定値は有用 |
0-3 読むときに外してほしくない三つの区別
- 「解剖学的に成立しうる経路」と「実証された経路」
- 神経解剖学の教科書に載っている経路が存在することと、灸がその経路を実際に駆動していることは別の主張である。本書は、両者を必ず別の文で書く。
- 「電気刺激で示されたこと」と「温熱刺激で示されたこと」
- 体性-自律神経反射の知見の多くは電気刺激による動物実験である。灸の温熱刺激にそのまま外挿できるかは検証されていない。本書では刺激様式を毎回明記する。
- 「分子の変化」と「臨床の変化」
- 受容体の発現量が変わったことと、患者の症状が変わったことのあいだには、少なくとも三つの検証されていない段階がある。
0-4 本書が扱わないこと
局所血流・全身循環の定量データは、同じライブラリの別冊『灸と血流の生理学』で扱っている。本書で血流に触れるのは、神経機序の帰結として説明が必要な場面に限る。数値の詳細はそちらを参照されたい。
本書の主張の強さは、Cochrane の確実性語彙に寄せてある。「〜である」は確実性が高い記述、「おそらく〜する」は中等度、「〜と報告されている」は低い、「〜については定量的なデータが見出せなかった」は不明を意味する。「傾向がみられた」という書き方は用いない。有意でない場合は「有意差はなかった」と書く。
熱が信号に変わるまで
灸の生理学は、皮膚のイオンチャネルから始まる。ここを飛ばすと、以降に出てくる温度の数値がすべて意味を失う。
01灸を「温熱刺激」で片づけない
「灸は温める治療である」という説明は、間違ってはいないが、生理学の議論を始める前に議論を終わらせてしまう。灸を4つの変数に分解しないかぎり、何が起きているかは問えない。
1-1 灸量を規定する変数
灸の治療強度は、温度・時間・面積の三つで規定されると整理されている[9](総説)。本書ではこれに深さを加えて4変数として扱う。深さを独立に立てる理由は、第II部で述べるとおり、皮膚のC線維と筋のA線維では動員される線維も鎮痛の持続時間も異なることが動物実験で示されているためである[12]。
| 変数 | 何を決めるか | 本書で扱う実測値の範囲 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 温度 | どの受容体が開くか | 38〜160℃ | [8][10][22][24][27] |
| 時間 | どれだけの受容体が動員されるか | 7.5秒〜30分 | [13][23][25] |
| 面積 | 空間的加重の大きさ | 底面径 3mm 〜 φ22mm | [8][22] |
| 深さ | 皮膚の線維か、筋の線維か | 表皮 〜 約5mm | [12] |
1-2 同じ「灸」でも温度が2桁違う
実際に報告されている温度は、手技によって大きく異なる。透熱灸(米粒大艾炷、高さ5mm・底面直径3mmの円錐形)の底面最高温度は、熱電対による計測で平均値が 140℃から160℃のあいだであった[8](石綿板上での燃焼。ヒト皮膚上の測定ではない)。一方、健常者への間接灸(ST36、5分間)における皮膚温のピークは 45.3 ± 3.3℃である[24](ヒト、n=15)。ラットへの間接灸(ST36)では皮膚温 65.7 ± 1.3℃、施灸時間 190 ± 6秒と報告されている[27](ラット、n=72)。
同じ「灸」という語の内側に、皮膚温45℃と艾炷底面160℃が同居している。この差は強弱の差ではなく、第2章で見るとおり、開くチャネルそのものを変える差である。
1-3 艾炷の密度は刺激の持続時間を変える
透熱灸では、艾炷の密度(mg/11.8mm³)と温度持続時間(秒)のあいだに有意な直線回帰が認められている(y = 1.9 + 3.2x, r = 0.92, p < 0.0001)[8]。同じ論文で、高さの違う艾炷の温度上昇速度(32〜45℃)に有意差は認められず、「高くひねった艾炷ほど緩やかに熱が伝わる」という論拠は見出せなかったと著者らは述べている。
刺激量を調整したいとき、変えるべき変数は「艾炷の高さ」ではなく密度である可能性が高い。密度と持続時間の関係は有意な直線回帰として報告されている一方、高さと温度上昇速度の関係は有意差なしと報告されているためである[8]。逆に、ひねり方の「高さ」で刺激量を語る従来の説明は、この実測では支持されない。ただしこれは石綿板上での底面温度測定であり、ヒト皮膚上での熱伝導を測ったものではない。
02温度感受性TRPチャネルの閾値地図
熱が電気信号になる瞬間を担うのは、感覚神経終末と表皮に発現する温度感受性TRPチャネルである。各チャネルには活性化温度閾値があり、灸の温度帯はその閾値を複数またぐ。
2-1 閾値の並び
哺乳類で温度受容に関わる分子として、6つのTRPチャネルが知られている。それぞれの活性化温度閾値は、TRPV1 >43℃、TRPV2 >52℃、TRPV3 >32〜39℃、TRPV4 >27〜35℃、TRPM8 <25〜28℃、TRPA1 <17℃と整理されている[1](総説)。TRPV1は1997年にカプサイシン受容体としてクローニングされ、侵害域の温度上昇によっても活性化されることが同時に示された[2]。TRPV2(VRL-1)はその相同分子として1999年に報告され、カプサイシン・酸・中程度の熱には応答せず、約52℃という高い閾値で活性化し、感覚神経節では中〜大径ニューロンの一部に顕著に発現すると報告された[3]。
2-2 灸研究の側からの整理
灸研究の総説では、灸の効果はTRPV1〜4、とくにTRPV1とTRPV2の活性化によって規定されると整理されている[9]。同総説は、温度・時間・面積が「有効な灸量」を形づくるとしている。ただしこれは総説による整理であり、灸そのものが各チャネルを開くことを個別に測定した研究の集積ではない点に注意が必要である。
温度は刺激の「強弱」ではなく、開く分子を切り替える独立変数である。43℃を境にTRPV1が、52℃を境にTRPV2が関与しうる。したがって「もう少し熱くする」という調整は、量を増やす操作ではなく、動員する受容体集団を入れ替える操作である可能性がある。逆に、心地よい温感(TRPV3・TRPV4域)で行う灸と、はっきり熱い灸を、同じ機序の強弱として説明することは避けるべきである。
03「灸=TRPV1」と言い切れない理由
TRPV1は灸を説明する最有力候補である。しかしTRPV1を単独で潰しても、マウスは熱を感じつづける。熱侵害受容は冗長性を持つ系として設計されている。
3-1 単独欠損では代償される
TRPV1とTRPV3の二重欠損マウス(V1V3dKO)を用いた研究では、ホットプレート試験において 48〜50℃で反応潜時の有意な延長が認められた(p < 0.05)が、熱感覚そのものは消失しなかった[5](マウス)。動的ホットプレート(34→44℃、1℃/分)では、V1V3dKO の跳躍回数が野生型 13.6 ± 3回に対し 33.6 ± 5.6回(n=20, 23)と報告されている。著者らの結論は「TRPV1とTRPV3は生体内で協調して急性の熱温度感覚を調節する」であり、単一分子による説明ではない。
TRPV3とTRPV4については、両者の欠損マウスでも熱感覚はほとんど損なわれず、TRPV1をアンタゴニストでマスクした条件下でも遺伝型間に有意差は認められなかった(p = 0.3967)と報告されている[6](マウス)。著者らは、これらの寄与は限定的かつ系統依存的であると述べている。
3-2 三重欠損で初めて消える
決定的な知見は2018年に報告された。TRPM3・TRPV1・TRPA1の三つを同時に欠損させたマウス(三重ノックアウト)では、急性侵害熱に対する逃避反応が消失した[4](マウス)。一方、冷刺激および機械刺激に対する侵害受容反応は正常に保たれていた。著者らは、これを熱傷を避けるためのフォールトトレラント(耐障害性)機構と表現している。二重欠損までは熱応答が保持される点が重要である。
3-3 表皮という第二のセンサー
温度を検出しているのは神経終末だけではない。表皮ケラチノサイトに発現するTRPV3が熱で活性化されるとATPが放出され、そのATPが隣接する感覚神経のP2受容体を活性化することで温度情報が伝達される、という経路が示されている[7](マウス。著者らは「ATPは皮膚における主にTRPV3を介した熱伝達のメッセンジャー分子である」と述べている)。灸の熱は、神経終末に直接届く前に、まず表皮細胞に届いている。
「お灸はTRPV1を刺激する治療である」という説明は、事実の一部しか写していない。正確には、灸の温度帯は複数の温度センサーを同時に、あるいは順に動員しうる。TRPV1が特に重要な候補であることと、TRPV1だけで説明できることは、別の主張である。
ある患者で「灸の熱さを感じにくい」場合、TRPV1機能の低下だけを想定するのは早い。熱侵害受容は少なくとも三つのチャネルに支えられており、また表皮を介する間接経路も存在する。感覚の鈍化は、末梢の分子ではなく、神経障害や皮膚の状態そのものを疑う理由になりうる。熱を感じにくい部位に強い灸を据えることは、『灸と神経生理学②』第9章の熱傷リスクに直結する。
04灸の実測温度と、開きうるチャネル
温度によって生体反応が変わることを、灸そのもので示した実験がある。38℃と46℃という8℃の差だけで、アウトカムに有意差が生じた。
4-1 38℃と46℃を比べた実験
急性高脂血症モデルマウスに対し、神闕および両側足三里へ灸を施した実験では、温度条件を 38 ± 1℃(皮膚から35±5mm)と 46 ± 1℃(皮膚から10±2mm)に分け、いずれも1穴あたり10分/日を2日間行っている[10](マウス、野生型32匹・TRPV1−/− 24匹)。
| 群 | 野生型 | TRPV1−/− |
|---|---|---|
| 正常対照 | 2.17 ± 0.46 | 3.66 ± 0.42 |
| モデル対照 | 5.24 ± 0.76 | 6.00 ± 1.26 |
| 灸 38℃ | 4.41 ± 1.21 | 4.96 ± 0.62 |
| 灸 46℃ | 2.44 ± 0.29 | 4.58 ± 2.16 |
野生型では、46℃群とモデル対照群の差が p < 0.001、46℃群と38℃群の差が p < 0.01 であった。一方、TRPV1−/− マウスでは全群間の比較で有意差はなかった(p > 0.05)。すなわち、この実験系におけるコレステロール低下作用はTRPV1に依存していた。46℃群ではTRPV1 mRNA発現が対照群および38℃群より有意に高かったと報告されている(p < 0.01)。著者らは限界として、サンプルサイズのさらなる検討と、他のTRPファミリーの関与の検証が必要であると述べている。
4-2 この実験を過大に読まないために
この研究はアウトカムが血中コレステロールであり、神経系の指標ではない。ここから言えるのは、「灸の温度差が生体反応の差を生み、その差がTRPV1に依存した」という一例が動物で示されたということまでである。同じ依存性が鎮痛・自律神経応答についても成り立つかは、この研究からは分からない。
施灸の距離設定(皮膚から何mm)は、快・不快の調整ではなく温度条件そのものの設定である。上記の実験では 35mm と 10mm の距離差が 38℃ と 46℃ の温度差になり、アウトカムに有意差が出た。臨床で「熱くないように遠ざける」ことは、動員する受容体を変える操作でありうる。効果が出ないときに検討すべき変数として、経穴の選択より先に距離と温度がある。
どの線維が動くか
受容体が開いた後、信号は線維を選んで走る。どの線維を動員したかで、感覚の質も、鎮痛の持続時間も、反射の届く範囲も変わる。
05Aδ線維とC線維
熱を運ぶ求心性線維は二種類ある。閾値も伝導速度も違い、その差はヒトで実測されている。
5-1 ヒトで測られた熱検出閾値
健常成人9名(女性3名、24〜35歳)に対しCO₂レーザーパルス(ビーム径6mm、10ms加熱後40msプラトー)を有毛部皮膚に与え、反応時間でAδ線維(<650ms)とC線維(≧650ms)を弁別した研究では、次の値が報告されている[11](ヒト、n=9)。
| 条件 | C線維 | Aδ線維 | 差 |
|---|---|---|---|
| 基準(T1未変化) | 39.8 ± 1.7℃ | 46.9 ± 1.7℃ | 7.2 ± 1.7℃ |
| T1 = 34℃ | 40.3 ± 1.3℃ | 47.4 ± 1.6℃ | 7.1 ± 1.4℃ |
| T1 = 38℃ | 42.4 ± 1.0℃ | 46.7 ± 1.8℃ | 4.3 ± 1.1℃ |
反応潜時は Aδ 平均 459ms、C 平均 961msであった。著者らは限界として、この手法が「皮膚内の熱感受性自由神経終末の全体集団のごく一部を反映しているにすぎない」ことを認めている。
5-2 この表が灸にとって持つ意味
基準条件でのC線維閾値は 39.8℃、Aδ線維閾値は 46.9℃である。第1章で見た間接灸のヒト皮膚温ピーク 45.3 ± 3.3℃[24]は、C線維の閾値を明確に超え、Aδ線維の閾値に到達するかどうかの境界にある。SDが3.3℃であることを踏まえれば、同じ手技でも個体や部位によってAδ線維を動員する場合としない場合が生じうる。
ただし注意が必要である。表5-1はCO₂レーザーによる急峻な加熱で得られた値であり、灸のように数十秒から数分かけて加温する刺激とは時間経過が異なる。灸の加温プロファイルでヒトのAδ・C線維閾値を測定した研究は、今回の調査範囲では見出せなかった。
また、条件によって閾値が動くことも示されている。T1=38℃(あらかじめ皮膚を温めた条件)では、C線維閾値が 42.4 ± 1.0℃へ上昇し、Aδとの差が 4.3 ± 1.1℃へ縮まった[11]。
ヒトの実測値では、皮膚の初期温度が違えば同じ熱刺激でも動員される線維構成が変わりうる[11]。冷えた四肢と温まった体幹に同じ灸を据えたとき、同じ神経入力になっているとは限らない。施灸前の皮膚温は、刺激条件を記述する変数の一つとして記録する価値がある。逆に、「同じ壮数だから同じ刺激量」という前提は、この実測に照らして成立しない。
06組織の層で分かれる求心路
同じ経穴でも、刺激が届く深さによって動員される線維が変わる。皮膚のC線維と筋のA線維は、別の鎮痛を生む。
6-1 層を分けた動物実験
ラットの炎症性筋痛モデル(完全フロイントアジュバント)を用い、単一線維記録で求心路を弁別した研究がある[12](ラット。単一線維記録 n=9〜23線維、コブラ毒実験 n=7、皮膚除神経実験 n=5〜6)。刺激条件は次のとおりである。
- 深部電気鍼(dEA):BL57、深さ約5mm、10Hz、0.2ms、1mA
- 灸様刺激(MS):50℃、10分間、BL57(右側)
- カプサイシン外用(CAP):局所経穴部位への塗布
深部電気鍼は、平均伝導速度 26.96 ± 6.50 m/s の筋A線維求心路を多数活性化した。線維分類の基準は、伝導速度1.5 m/s以上をA線維、1.5 m/s未満をC線維としている。鎮痛の持続は、深部電気鍼が7日間、灸様刺激とカプサイシンが120分以上と報告されている。
6-2 選択的に消す実験
この研究の要点は、機序を消す実験にある。コブラ毒による深部A線維の脱髄では深部電気鍼の鎮痛が失われ、外科的な皮膚除神経ではカプサイシンによる鎮痛が失われた[12]。著者らは、組織の層と刺激強度が鎮痛効果の決定因子であると結論している。
灸様刺激(50℃)は皮膚のC線維侵害受容器を動員し、深部電気鍼は筋のA線維を動員した。両者はいずれも鎮痛を生じたが、持続時間が大きく異なった(120分以上 対 7日間)。ただし本研究は麻酔下ラットのモデル動物実験(階層C)であり、ヒトでの再現は示されていない。
「灸と鍼はどう違うのか」という問いに、この実験は一つの具体的な答えを与える。両者は同じ入力の強弱ではなく、届く層が違う可能性がある。皮膚表層の熱刺激で反応が乏しい症例に対して、灸の壮数を増やす(同じ層への刺激を増やす)のか、深部への刺激手段に切り替えるのかは、この知見に照らせば別の判断である。なお、ヒトでこの層別の使い分けを検証した研究は見出せなかったため、これは動物実験からの推論として扱うべきである。
07軸索反射——脊髄を経ない反応
灸の局所反応には、脊髄を経由しない成分がある。脊髄を切っても消えない反応が、実験で示されている。
7-1 二相性の反応
ウレタン麻酔下ラットの腓腹筋に灸様温熱刺激(加熱温度41〜52℃、加熱7.5秒・休止12.5秒を1分間に3回)を与え、レーザードップラー血流計で筋血流を測定した研究がある[13](Wistarラット36匹)。刺激時の実測温度は1回目 42.7 ± 1.2℃、2回目 49.2 ± 1.8℃、3回目 51.0 ± 0.8℃であった。
筋血流は一過性の低下に続いて増加する二相性の反応を示し、血圧の変化はなかった。低下のピーク値は平均 −23.3 ± 2.4%、増加の最大ピーク値は平均 +25.5 ± 8.6%であった。
7-2 どこで反射が閉じているか
この研究の価値は、経路を一つずつ潰した点にある[13]。
| 介入 | 低下相 | 増加相 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 局所麻酔 | 消失 (6/6) | 消失 (6/6) | いずれも神経性 |
| 坐骨神経切断 | 保持 (6/6) | 消失 (0/6) | 増加相は求心性線維を要する |
| 脊髄離断 | 保持 (7/7) | 保持 (7/7) | 反射弓は脊髄より末梢 |
| CGRP拮抗薬 | — | 消失 (8/8) | 増加相はCGRPを介する |
著者らは、増加相は脊髄より末梢に反射弓を持つ軸索反射によって生じ、低下相は節後性の筋交感神経線維への直接刺激によって生じると結論している[13]。血圧が変化しなかったことから、これは全身性ではなく局所性の反応である。
感覚神経ペプチドについては、CGRPが血管周囲の感覚神経内でサブスタンスPと共局在し、両者の併用が単独効果の和を上回る相乗的な微小血管反応を生じることが報告されている[15](総説)。ただしヒトの施灸によるCGRP・サブスタンスP遊離量を直接測定した研究は、今回の調査範囲では見出せなかった。
施灸直後に局所が一度冷たく感じられることがあっても、それは失敗の徴候とは限らない。低下相は交感神経性、増加相は軸索反射性という、機序の異なる二つの現象が時間差で起きていることが動物実験で示されている[13]。据えた直後に効果を判定してはならない。ただしこの二相性はラットの筋血流で測られたものであり、ヒトの臨床効果の時間経過を示すものではない。血流側の数値の詳細は『灸と血流の生理学』を参照されたい。
08ヒトで測れたこと:フレア反応
灸の求心路について、ヒトで直接的な証拠を出した研究が日本にある。カプサイシンで特定の線維を選択的に脱感作し、灸のフレア反応がどうなるかを見た実験である。
8-1 脱感作実験のデザイン
健常成人13名(男性6名、女性7名、平均年齢 26.0 ± 5.6歳)の左前腕内側部に、0.1%カプサイシン溶液を含ませた濾紙を1日6時間・3日間貼付し、TRPV1発現C線維を脱感作した[14](ヒト、n=13)。脱感作部位では熱痛覚閾値が有意に上昇したことが確認されている。
8-2 結果
著者らの結論はこうである。「鍼や灸刺激は主にカプサイシン感受性C線維によってフレア反応を生じることが明らかとなった。灸刺激によるフレア反応はカプサイシン脱感作により大きく減少し、主にTRPV1を介して起こったことが考えられた。一方、鍼刺激によるフレア反応は脱感作によって完全に消失した」[14]。
灸のフレア反応は「減少」にとどまり、鍼のフレア反応は「消失」した。この差は、灸がTRPV1発現C線維以外の経路も動員していることを示唆する。第3章で見た熱侵害受容の冗長性(TRPM3・TRPA1の関与[4])と整合する所見である。ただし本研究はフレア反応という局所指標を測ったものであり、鎮痛や自律神経応答について同じことが言えるかは示されていない。
ヒトで確かめられているのは、ここまでである。「灸の局所反応の主要部分がカプサイシン感受性C線維を介する」ことは、ヒトの実験で示されている。一方、そこから先——脊髄で何が起き、脳がどう応じるか——は、以降の章で見るとおり、ほぼすべてが動物実験の知見である。患者に機序を説明するとき、この境界線を越えないことが誠実さの基準になる。
脊髄後角で何が起きるか
本書の中核。灸の信号は後角で何をされるのか。ここには、多くの人が想像しているのとは逆向きの実測データがある。
09後角は中継点ではない
脊髄後角を「信号が通過する場所」と考えると、灸の生理学は理解できない。後角は、入力を統合して出力を決める場所である。
9-1 層構造が境界を決める
後角は層構造を持つ。I層は主に侵害入力を受け、V層を含む深層は侵害入力と低閾値機械受容入力の双方を受ける[16](総説)。この層構造そのものが、高閾値の侵害刺激と低閾値の無害な触刺激の境界を規定している。
9-2 脳へ送られる情報はごく一部
後角に入った入力の大多数は、脳へ送られる前に脊髄内で処理される。脊髄視床路をはじめとする前外側系へ投射するニューロンは後角ニューロンの一部にとどまり、残りの大多数は脊髄内にとどまる介在ニューロンと固有脊髄ニューロンである[16]。
※ 投射ニューロンの正確な比率について、本書は原著の数値を独立に確認できなかったため、数値を記載していない。
9-3 同じ分節に何が入っているか
同じ脊髄分節には、機械刺激・触覚入力・内臓からの入力・上位中枢からの下行性入力が集まる[16]。灸の熱入力は、その中の一つとして到着する。
同じ温度・同じ時間の施灸でも、入る分節と、その分節に同時に入っている他の入力(内臓病変・関節可動域・触圧刺激)によって、中枢での処理結果は変わりうる。これは「経穴が効く」という説明とは別の枠組みである。効果が出なかったときに、経穴を替える前に「その分節に何が同時に入っているか」を問うことができる。
10灸はまず後角ニューロンを発火させる
本書で最も注意して読んでほしい章である。灸刺激は、脊髄後角の広作動域(WDR)ニューロンを黙らせるのではなく、まず発火させている。これは実測されている。
10-1 実験の設計
IBS(過敏性腸症候群)モデルラットを用い、電気鍼と灸を比較した研究がある[18](ラット。各治療群 n=10、WDRニューロン記録は正常ラット11匹・モデルラット12匹)。方法として、「EAおよびMox刺激の30秒後に、背景活動を再び20秒間記録した」と記載されており、測定されているのは灸刺激そのものに対する後角ニューロンの反応である。結腸伸展刺激に対する応答を灸が抑制したかどうかを測ったものではない。
| 刺激条件 | 正常ラット | モデルラット | p値 |
|---|---|---|---|
| 電気鍼 1mA | 0.84 ± 0.74 | 2.73 ± 0.65 | P < 0.001 |
| 電気鍼 3mA | 1.91 ± 1.48 | 6.44 ± 1.26 | P < 0.001 |
| 灸 43℃ | 1.76 ± 0.81 | 4.14 ± 1.83 | P = 0.001 |
| 灸 46℃ | 5.19 ± 2.03 | 7.91 ± 2.27 | P = 0.01 |
10-2 この数字をどう読むか
三つのことが読み取れる。
- 灸は後角WDRニューロンを発火させる。43℃でも46℃でも、正常ラット・モデルラットの双方で発火が記録されている。
- 温度が上がると発火が増える。正常ラットで 43℃の 1.76 ± 0.81 に対し 46℃で 5.19 ± 2.03。
- モデルラットのほうが発火が大きい。すべての刺激条件で、正常よりモデルの発火頻度が高く、いずれも有意差がある。
同じ研究で、灸46℃群では結腸の5-HT発現が 1.42 ± 0.65(モデル群 7.38 ± 1.12、P < 0.001)、5-HT3R発現が 6.62 ± 0.77(モデル群 2.86 ± 0.88)、5-HT4R発現が 4.62 ± 0.65(モデル群 2.22 ± 0.97)と報告され、著者らは「灸46℃群の鎮痛効果は灸43℃群、電気鍼1mA・3mA群より優れていた」と結論している[18]。
灸は侵害受容系を抑制することから始めるのではなく、活性化することから始めている。鎮痛が生じるとすれば、それはこの入力の後に起こる調節の結果である。この順序を取り違えると、「灸は痛みを抑える刺激だから痛くないはずだ」という誤った説明になる。
「熱くない灸のほうが身体にやさしい」という説明は、少なくともこの実験系には支持されない。46℃条件のほうが後角の発火も大きく、著者らの評価では鎮痛効果も大きかった[18]。ただしこれはラットの内臓痛モデルであり、ヒトの臨床にそのまま持ち込める結論ではない。また、モデルラットで発火が大きかったことは、病態がある個体ほど同じ灸が強い入力になる可能性を示唆する。過敏な患者への初回施灸を控えめにする臨床判断は、この所見と矛盾しない。
11温度が変えるのは強度ではなく回路
前章の温度差は、行動指標にも現れる。ただし用量反応は単純な右肩上がりではない。
11-1 行動指標での比較
同じ研究グループによる別報告では、便秘型IBSモデルラット60匹を6群(各n=10)に分け、灸を 43 ± 1℃ および 46 ± 1℃(皮膚から20±5mm)で1日1回10分間、7日間連続して施している[17]。腹壁退避反射(AWR)スコア(80mmHg刺激時、中央値と四分位範囲)は次のとおりである。
| 群 | AWRスコア |
|---|---|
| 正常対照(NC) | 2.00 [1.75–2.00] |
| モデル対照(MC) | 4.00 [3.00–4.00] |
| 灸 43℃ | 2.00 [2.00–3.00] |
| 電気鍼 3mA | 2.00 [2.00–3.00] |
著者らは「全EA群および全Mox群のAWRスコアはMC群より有意に低かった(P < 0.01)」と報告している[17]。この論文には限界を記載した専用のセクションがない。
11-2 二つの研究を並べて見る
第10章の研究[18]では 46℃が最も強い効果を示し、本章の研究[17]では 43℃でもモデル群より有意にAWRスコアが低下している。両者を合わせて言えるのは、43℃と46℃のいずれも行動指標を改善させたこと、および後角の発火量は46℃のほうが大きかったこと、までである。「温度が高いほど臨床効果が高い」という一般則をここから導くことはできない。
灸の温度に関する用量反応を神経活動の指標で検証した査読済み研究は、今回の調査範囲ではこの一つの研究グループの系統のみであった。独立した研究チームによる再現は見出せなかった。したがって本書は、43℃と46℃の差についての確実性を「低い」として扱う。
刺激量を上げる方向にも、下げる方向にも、根拠として使える定量データは薄い。実務的に意味があるのは「温度を記録する」という一点である。皮膚温を測らずに施灸すれば、効かなかったときに何を変えるべきかが永久に分からない。温度を記録していれば、次回に変えるべき変数が特定できる。
12内臓過敏モデルで変わる後角の受容体
灸の反復刺激は、後角の受容体発現そのものを変えると報告されている。これは「その場の反射」ではなく、後角の性質の変化である。
12-1 NMDA受容体経路
内臓過敏ラットに対し、点火した艾条の先端を経穴から垂直に約2cm上方に置き、1日1回10分間、7日間の灸を天枢(ST25)および上巨虚(ST37)の両側に施した研究がある[19](ラット。正常対照16匹、モデル群16匹、灸治療群16匹、Ro 25-6981群16匹、最終64匹)。
結果として、AWRスコア、脊髄後角の NR1・NR2B・PKCε の mRNA発現のいずれについても、正常群とモデル群のあいだ、およびモデル群と灸群のあいだで P < 0.001 の差が報告されている[19]。著者らは、灸が内臓過敏を抑制するとともに、脊髄における NR1・NR2B・PKCε の発現を低下させる可能性があるとしている。この論文にも限界を記載した専用のセクションはない。
12-2 この知見の位置づけ
NR1・NR2B は NMDA受容体のサブユニット、PKCε はプロテインキナーゼCの一種であり、いずれも中枢感作(central sensitization)に関わる分子として広く研究されている。灸の反復刺激が、後角の「感作されやすさ」を規定する分子の発現量を下げたという報告である。
ただし注意すべき点がある。この研究のアウトカムは mRNA発現量と行動スコアであり、後角ニューロンの電気活動が実際に変化したことを同時に示したものではない。また、対象は内臓過敏モデルラットであり、健常個体で同じことが起きるかは示されていない。
「1回で効く」と「続けて効く」は別の機序でありうる。第7章の軸索反射は刺激の直後に起こる局所現象であり、本章の受容体発現変化は7日間の反復刺激の後に測定された現象である。施術計画を立てるとき、単回で狙える反応と、反復でしか狙えない反応を分けて考える根拠になる。ただし本章の知見は動物実験(階層C)であり、ヒトでの治療間隔を設計する根拠にはならない。
13侵害入力が侵害入力を抑える
灸が「痛い刺激なのに痛みを止める」ことを説明しうる古典的な仕組みがある。ただし、灸でそれが起きることを示したヒト研究は見出せなかった。
13-1 DNIC / CPM とは何か
DNIC(広汎性侵害抑制性調節)は、「異所性に侵害刺激を加えると、空間的に離れた別の侵害入力が減弱する」現象として定義されている[20](総説)。ヒトではCPM(条件刺激性疼痛調節)と呼ばれ、定量的感覚検査に基づく内因性疼痛抑制機能の評価パラダイムとして用いられる。齧歯類および霊長類では、後角の二次ニューロンである広作動域(WDR)ニューロンの応答が、その受容野の外にある侵害入力によって抑制される。
13-2 どの回路が担うか
この総説が挙げる関連領域は、中脳水道周囲灰白質(PAG)、吻側延髄腹内側部(RVM)、青斑核(LC)、背側網様核(DRt)である[20]。神経化学系としては次の三つが記述されている。
- セロトニン系
- RVMから脊髄への投射。5-HT7受容体がGABA作動性介在ニューロンを介してDNIC鎮痛を媒介する一方、5-HT3受容体はDNICの喪失を媒介するとされる[20]。
- ノルアドレナリン系
- 青斑核およびA5領域から脊髄への投射。α2アドレナリン受容体がDNIC鎮痛を媒介する[20]。
- オピオイド系
- μオピオイド受容体が抑制性Giタンパクと共役するとDNIC鎮痛が生じ、刺激性Gsタンパクと共役すると痛覚過敏が生じる。背側網様核でのシグナリングの切り替えが重要とされる[20]。
13-3 灸との接続点、そして空白
第10章で見たとおり、灸は後角WDRニューロンを発火させる[18]。DNICは「別の侵害入力がWDRニューロンの応答を抑える」現象である。この二つを並べれば、灸の熱刺激が条件刺激として働き、他部位の侵害入力を抑制するという仮説が立つ。
しかし——灸によってCPMを誘導できるかを検証したヒト研究は、今回の調査範囲では1件も見出せなかった。これは本書における最大の空白である(『灸と神経生理学②』第10章で改めて扱う)。
「痛いところから離れた場所に灸を据えても効く」という臨床経験を、DNIC/CPMで説明したくなる。その説明は解剖学的に成立しうる経路としては妥当だが、灸で実証された経路ではない。患者への説明では「そういう仕組みが身体に備わっていることは分かっている」までにとどめ、「お灸がその仕組みを動かしている」と断定しないことが、現時点の証拠に対して誠実な態度である。
本書が答えられなかったこと
空白を空白として書くことが、次にそこを埋める研究への最短の道である。本書の範囲で該当する査読済み研究を見出せなかった項目を挙げる。
14本書の範囲で見出せなかったこと
分かっていないことを具体的に書けない教材は、臨床判断の材料にならない。以下は、原本の調査範囲(英語・日本語・中国語圏の検索34クエリ、一次文献到達35件)で該当する査読済み研究を見出せなかった項目のうち、本書が扱った「熱の受容から脊髄後角まで」の範囲に属するものである。項目は原本の空白リストからの抜粋であり、文言・引用は原本のまま変えていない。
- 灸の加温プロファイルでのヒトAδ・C線維閾値。ヒトの熱検出閾値はCO₂レーザーによる急峻加熱で測られている[11]。灸のように数十秒かけて加温する条件での線維別閾値のデータを見出せなかった。
- 透熱灸(有痕灸)の神経応答。艾炷底面温度は実測されている[8]が、その熱がヒトのどの線維をどの順に発火させるかを記録した研究を見出せなかった。有痕を伴う手法は倫理審査と盲検化が困難であり、研究が進みにくい構造的理由がある。
- ヒトの施灸によるCGRP・サブスタンスPの遊離量。動物では軸索反射性の血流増加がCGRP拮抗薬で消失することが示されている[13]が、ヒトでのペプチド遊離量を直接測定した研究を見出せなかった。
- 灸の温度に関する用量反応の独立再現。43℃と46℃を神経活動指標で比較した研究は、一つの研究グループの系統のみであった[17][18]。独立した研究チームによる再現を見出せなかった。
脳・下行性調節・自律神経出力に関する空白(灸によるCPMの誘導、下行性疼痛調節系を駆動することのヒトでの直接的証拠、鎮痛のオピオイド依存性、熱敏現象の盲検下での検証)と、方法論上の三つの構造的困難(盲検化・出版バイアス・電気刺激からの外挿)、および本書の主要な記述を確実性の階層で並べ直した一覧表は、『灸と神経生理学②』第10章に収めた。
理解度チェック
本書の内容から8問。選択するとその場で正誤と解説が出ます。設問はすべて本文に記載した報告値・記述に対応しており、各問には該当章へのリンクを付けました。自己確認のための演習であり、資格や技能を証明するものではありません。
透熱灸の刺激量を連続的に変えたいとき、実測データから支持されている変数はどれか。
艾炷の密度と温度持続時間のあいだには有意な直線回帰が認められている(r = 0.92)。一方、高さの違いによる温度上昇速度に有意差は認められず、「高くひねった艾炷ほど緩やかに熱が伝わる」という論拠は見出せなかったと著者らは述べている。根拠:第1章/[8]
温度感受性TRPチャネルについて、本書の要点はどれか。
TRPV4は27〜35℃、TRPV3は32〜39℃、TRPV1は43℃超、TRPV2は52℃超で活性化する。したがって「もう少し熱くする」という調整は、量を増やす操作ではなく動員する受容体集団を入れ替える操作である可能性がある。根拠:第2章/[1]
「灸=TRPV1」と言い切れないのはなぜか。
TRPV1は最有力候補だが、熱侵害受容は冗長性を持つ系として設計されている。ひとつのチャネルを潰しても熱の感受が完全には失われないことが示されており、灸の説明をTRPV1だけに帰することはできない。根拠:第3章
灸の刺激を伝える神経線維について、正しい組み合わせはどれか。
Aδ線維は薄い髄鞘をもち速い一次痛を、無髄のC線維は遅い二次痛と温感を伝える。なお灸の加温プロファイルでヒトのAδ・C線維閾値を測定した研究は見出せていない。根拠:第5章
軸索反射とはどんな反応か。
灸様温熱刺激による筋血流の増加相は、脊髄を離断しても保たれ、CGRP拮抗薬で消失した。ここから著者らは、増加相は脊髄より末梢に反射弓を持つ軸索反射によると結論している。根拠:第7章/[13]
灸の刺激と脊髄後角ニューロンの関係について、報告されているのはどれか。
灸はまず後角ニューロンを発火させる。温度が高いほど発火が大きいと報告されている。「灸は痛みを抑える」という結論だけを覚えると、この向きを取り違える。根拠:第10章
「痛いところから離れた場所に灸を据えても効く」ことをDNIC/CPMで説明することについて、本書はどう述べているか。
DNIC/CPMの回路と評価法は確立しており、灸が後角WDRニューロンを発火させることも示されている。しかし灸でCPMを誘導できるかを検証したヒト研究は1件も見出せなかった。患者への説明は「そういう仕組みが身体に備わっていることは分かっている」までにとどめるのが誠実である。根拠:第13章
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引用文献
本書の記述はすべて以下の一次・二次資料に基づく。すべての文献に到達可能なURLを付した。非査読の資料は本文中でその旨を明記した(本書では非査読資料からの数値引用は行っていない)。
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灸と神経生理学① 第1版 2026年8月17日発行
発行:合同会社YOMOGI BASE(鍼灸エビデンス・ライブラリ)
本書の位置づけ。本書は『灸と神経生理学』(第1版・全24章)を読み進めやすい分量に分けた二分冊の①であり、熱の受容から脊髄後角までを収める。脳・下行性調節・自律神経出力と、臨床エビデンス・安全性・研究方法論は②に収めた。
数値の出所方針。本書に記載した数値は、すべて一次文献に記載された報告値をそのまま引用したものである。編者が計算・推定・丸めた値は含まない。平均±SD と 平均±SE は原著の表記どおりに記した(統一のための書き換えは行っていない)。実測波形でない図には「模式図」と明記した。
調査範囲。英語・日本語・中国語圏を対象に34クエリの検索を行い、35件の一次・二次資料に到達した(2026年8月13日時点)。到達できなかった数値は記載していない。分冊にあたり、本書の本文が引用している文献のみを引用文献欄に掲げ、番号は原本の通し番号を保持した。
本書の限界。本書が扱った灸の神経機序に関する知見の多くは麻酔動物実験に由来する。ヒトで得られている定量データは、皮膚温・フレア反応に限られる。本書の範囲の空白リストは第14章に、原本全体の空白リストは『灸と神経生理学②』第10章に掲げた。
発行と利益相反。本書の発行者は合同会社YOMOGI BASEである。同社はよもぎ・お灸に関連する商品を扱う事業者であり、この利害関係を開示したうえで、本書では特定の商品・サービス・銘柄に一切言及せず、効能をうたわない編集方針を採っている。文献の選定・数値の引用・空白の明示は、事業上の利害と独立して行った。自社および自社関係者による発信は、査読の有無にかかわらず出典として用いない。
ご利用にあたって。本書は教育・研究目的の学術情報であり、個々の患者に対する診断・治療方針を示すものではない。臨床判断は、施術者自身の責任において、患者の状態と関連法規に基づいて行われたい。
改版履歴。2026年8月13日 原本『灸と神経生理学』(全24章)第1版発行。
2026年8月17日 二分冊化にともなう第1版。章番号を分冊内で振り直し、姉妹巻の章への参照はリンクで接続した。
2026年8月17日 出典照合版。全引用文献をNCBI(PubMed/PMC)・Crossref・J-STAGEの書誌レコードに当たって実在と書誌を確認し、著者名・巻号頁を補完した。孫引き・誤帰属・非査読ソースは一次文献に差し替え、差し替えた箇所は引用文献欄に注記した。編者が報告値を超えて述べる示唆は1冊2件までとする規約を序章に明記した。